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第21回学習交流会報告 その3 避難区域再編に伴う賠償と時効について

第21回学習交流会(“福島とともにシリーズNo4”)報告・その3

今回は、「1 避難区域再編に伴う賠償の問題」と、学習交流会で十分取り上げきれなかった「2 時効について」を報告します。

1 避難区域再編に伴う賠償の問題
2011年12月16日に原子力対策本部長・野田首相は「事故そのものは収束に至った」と宣言、12月26日には原子力対策本部が「ステップ2の完了を受けた警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の検討課題について」を公表しました。

(1)「ステップ2の完了を受けた警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の検討課題について」とは

①「ステップ2の完了」とは
「原子炉の冷温停止状態の達成、使用済み燃料プールのより安定的な冷却の確保、滞留水全体量の減少、放射性物質の飛散抑制などの目標が達成されていることから、ステップ2(放射性物質の放出が管理され、放射線量が大幅に抑えられている)の目標達成と完了を確認した」と説明しています。

汚染水問題が明らかになった現在、この「ステップ2の完了」が無理やりこじつけたものだったことは明白です。それにしても、「滞留水全体量の減少」はどういう事実に基づいていたのでしょうか?

でっち上げともいえる「ステップ2の完了」の裏には、「避難指示解除、住民帰還」を急ぐ政府の思惑がありました。政府だけではありません。避難指示解除は賠償の終了、住民帰還促進につながります。東電や地元自治体首長にとっても、避難という非日常を終了させ1日も早い原状復帰は重要でした。

②警戒区域及び避難指示区域の見直し
警戒区域及び避難指示区域(半径20㎞区域と半径20㎞以遠の計画的避難区域)は、2012年3月末を目途に、次の3区域に再編されることになりました。
<避難指示解除準備区域 今年8月現在で約3.3万人>
・年間積算線量が20mSv以下となることが確実である地域
・除染、インフラ復旧、雇用対策等の支援策を実施して住民の1日でも早い帰還を目指す
<居住制限区域 〃 約2.3万人>
・年間積算線量が20mSvを超えるおそれがあり、引き続き避難を継続する地域
・国が計画的に除染を実施する
<帰還困難区域 〃 約2.5万人>
・5年間を経過しても年間積算線量が20mSvを下回らないおそれがある、現時点で年間積算線量が50mSv超の地域
・将来にわたって居住を制限することを原則とする

③3区域再編の基準・年間積算線量20mSvについて
この基準設定について次のように説明しています。

・原子力安全委員会(規制委員会に改組)は解除に関する考え方(2011年8月4日公表)で「解除日以降年間20mSv以下となることが確実であることが避難指示解除の必須要件である」としている。
・年間20mSvの被ばくリスクについては様々な議論があったことから、「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ」を設けて国内外の有識者の意見を聞き、検討を進めた。
・その結果「年間20mSv以下の健康リスクは喫煙や飲酒、肥満、野菜不足など他の発がん要因によるリスクと比較して十分に低いものであり、除染や食品安全管理の継続的な実施など適切な放射線防護措置を講ずることにより十分リスクを回避できる水準であることから、今後より一層の線量低減を目指すにあたってのスタートとして用いることが適当である」との評価を得た。

原子力安全委員会が示した年間20mSvは、ICRP(国際放射線防護委員会)のPublication111(原子力事故もしくは緊急放射線被ばく後の長期汚染地域住民の防護に関する委員会勧告 2008年)で示された「汚染地域内に居住する人々の防護の最適化のための参考レベルは1~20mSvの範囲の下方の部分から選定すべきである」によっています。

防護の最適化とは、「被ばくがもたらす不利益と経済的・社会的要素(避難生活の負担、コミュニティの存廃、個人の生活の確保等)とのバランスを図って最適な防護方策が決定されること」をさします。参考レベルとは、その値を超えたら避難等の対策を実行すべき放射線量をさします。

年間20mSv以下は「安全を示す線量値」ではないのです。原子力安全委員会の説明は「ⓐ健康リスクはある、ⓑだけど十分低い、Ⓒ適切な防護措置をすればリスクは回避できる」であり「リスクはゼロ」とは言っていません。「除染や食品安全管理の継続的な実施などで回避できる」としていますが、除染や食品安全管理の継続的な実施が保証されなければリスク回避はできないということです。

年間20mSv以下をどう考えるかについての視点として、放射線管理区域があります。「電離放射線障害防止規則」には「3か月間につき1.3mSvを超える恐れのある区域は放射線管理区域と明示しなければならない」とあります。年間でいうと、5.2mSvを超える区域は放射線管理区域ということです。

もう一つの視点は、国内の法令で定められている公衆の線量限度です。これは年間1mSvとなっています。

原発事故のために避難させられた住民は、ステップ2の完了宣言で、放射線管理区域に相当し、公衆の線量限度をはるかに超えた被ばくをもたらす元の居住地への帰還を求められることになったのです。

④今後の検討課題と対応方針について
・放射能汚染に対する住民の強い不安感を払しょくする。
(対応方針)健康管理実施への支援、住民との継続的な対話実施の体制整備、地域密着の専門家の育成、地域への放射線測定器の配備
・責任をもって着実に除染を実施する。
(対応方針)中間目標(例えば2年後に年間10mSv近傍まで下げる)の設定、子どもの生活環境の除染を最優先、学校再開前に1μSv/h未満を実現、子どもの健康管理や線量測定、学校給食食材等の測定機器の整備促進
・インフラ復旧、雇用対策等に取り組む。
(対応方針)生活インフラや病院・学校等の公共施設の復旧・復興に地元のニーズを踏まえ迅速に対応、安定した雇用の創設や居住の安定確保に向け積極的な施策を実施
・住民の早期生活再建に向けて積極的に関与する。
(対応方針)原子力損害賠償紛争審査会(原陪審)に可能な限り迅速な検討を依頼し、遅くとも見直し実施までに賠償指針を提示するよう要請する。

原賠審は2012年3月6日に「中間指針第2次追補(政府による避難区域等の見直し等に係る損害について)」を発表しました。

(2)「中間指針第2次追補(政府による避難区域等の見直し等に係る損害について)」の内容
①再編から避難指示解除までの間の精神的損害賠償額
<避難指示解除準備区域>1人月額10万円を目安とする。
<居住制限区域>1人月額10万円を目安とし、概ね2年分をまとめて1人240万円を請求できる。
<帰還困難区域>1人600万円を目安とする。(5年以上帰還できない状態が見込まれることから損害額を一括して算定することとした)
②旧緊急時避難準備区域の精神的損害賠償額
2011年9月30日に解除されていること等をふまえ、2012年8月末までを目安に、1人月額10万円を目安とする。
③特定避難勧奨地点の精神的損害賠償額
解除後3か月間を当面の目安に、1人月額10万円を目安とする。
④営業損害
賠償の終期は当面示さずに、個別事情に応じて合理的に判断する。
3.11以降得た利益や給与等が「特別の努力」と認められる場合には、損害額から控除しない等の対応が必要である。
⑤就労不能等に伴う損害
賠償の終期は当面示さずに、個別事情に応じて合理的に判断する。
3.11以降得た給与等が「特別の努力」と認められる場合には、損害額から控除しない等の対応が必要である。
⑥財物価値の喪失または減少等
<帰還困難区域>事故発生直前の価値が100%減少(全損)したと推認する。
<居住制限区域、避難指示解除準備区域>解除までの期間等を考慮して、事故発生直前の価値が一定程度減少したと推認する。
⑦自主的避難等に係る損害
中間指針第一次追補(2011年12月6日)では、対象期間を2011年12月末としたが、2012年1月以降については、自主的避難が合理性を有していると認められる場合には賠償の対象とする。
⑧除染等に係る損害について
除染等(汚染土壌の除去、汚染拡散防止等の措置、除去土壌の収集、運搬、保管、処分、汚染廃棄物処理を含む)により生じた追加的費用、減収分、財物価値の喪失・減少分は賠償すべき損害と認める。
地方公共団体や教育機関が行う検査等に係る費用は、賠償すべき損害と認める。

(3)東電の「避難指示区域の見直しに伴う賠償基準」策定経過
第二次追補公表以降、原賠審の会議が開催されないまま、7月20日には経産省が「避難指示区域見直しに伴う賠償基準の考え方について」を公表しました。

賠償基準のもととなる指針は、原賠法第18条により原子力損害賠償紛争審査会が定めることとされ、東電は原陪審の指針を受けて賠償基準を策定してきました。経産省の「賠償基準の考え方について」の公表は、このプロセスを逸脱しています。なぜ、経産省が「賠償基準の考え方について」(さすがに指針という言葉は使っていません)を示すことになったのでしょうか?

経産省の「賠償基準の考え方について」には
「関係閣僚において、避難指示区域の見直しに伴う賠償基準の考え方について、以下のとおり取りまとめた。今後この考え方を踏まえ、東京電力において賠償基準を公表することとなる」
とあるだけで、原賠審との関連については何も言っていません。

経産省公表直後の8月3日の原賠審の会議で、資源エネルギー庁・原子力損害対応室長守本参事官が次のように説明しています。
「通常でございましたら審査会の指針を出していただいたら、東電がそれに従って基準を作成することになるわけでございます。ただ、今回は、政府としても、東電任せにしないで、前面に出て、自治体、住民の方々のご意見をお伺いして、調整をしてきたということでございます」
その背景として守本参事官は2点をあげています。
1 今回の基準は、避難指示区域見直しと密接に関係する。
2 住民の生活再建については、賠償だけですべての課題解決にはならない。取り組み姿勢を示すグランドデザイン、帰還に向けた政策との整合性を図るという政策的視点が必要だ。

何やらわかりにくい説明ですが、8月3日原賠審の会議録を読み進むと、委員、守本参事官、東電賠償責任者・内藤副社長(広瀬氏<社長就任>の後任者)のやりとりから、次のような構図が見えてきます。
ⓐ「中間指針第2次追補」(2012年3月6日)を受けて東電は、経産省・資源エネルギー庁の指導・助言を受けながら、賠償基準策定に取り組んだ。
ⓑ経産省・資源エネルギー庁(担当は原子力損害対応室)は、再編作業を進めていた内閣府と連携しながら、避難指示解除と賠償との関係について自治体側の意見・要望を聴取、協議した。
Ⓒ経産省・資源エネルギー庁は、自治体側との協議結果等をもとに、賠償問題が再編作業のネックとならないよう、再編作業を急ぐ内閣府と東電の賠償基準策定の間をとりもった。

守本参事官が説明したように、経産省は、再編と密接に関係する賠償基準策定を「東電任せにしないで」、「自治体、住民の方々のご意見をお伺いして」調整をし、基準策定作業の「前面に出て」東電を指導・助言した、のです。

経産省が「避難指示区域見直しに伴う賠償基準の考え方について」を公表した4日後の7月24日に東電は、経産省「考え方について」を踏襲する「避難指示区域の見直しに伴う賠償の実施について」を発表しました。経産省「考え方について」は、東電の賠償基準発表の“露払い”のようなものでした。

経産省が深くかかわった「避難指示区域の見直しに伴う賠償基準」とはどのような内容でしょうか。

(4)東電の「避難指示区域の見直しに伴う賠償の実施について」の内容概要
(宅地・建物)
<帰還困難区域>3.11当時の財物価値を全額賠償
<居住制限区域、避難指示解除準備区域>3.11当時の財物価値を算定した金額を賠償

(家財)
<帰還困難区域>単身325万円、世帯475万円+大人1人60万円+子ども1人40万円
<居住制限区域、避難指示解除準備区域>単身245万円、世帯355万円+大人1人45万円+子ども1人30万円

(建物修復費用)
単価(1㎡あたり14,000円)×床面積(㎡) 上限は1,000万円

(精神的損害)*包括請求方式
<帰還困難区域>5年間分600万円
<居住制限区域>2年間分240万円
<避難指示解除準備区域>1年間分120万円

(就労不能損害)*包括請求方式
3.11当時の収入をもとに2012年6月1日~2014年2月28日の期間

(避難・帰宅等費用)*包括請求方式
から<帰還困難区域>2012年6月1日~2017年5月31日の期間
<居住制限区域>2012年6月1日~2014年5月31日の期間
<避難指示解除準備区域>2012年6月1日~2013年5月31日の期間

上記のほか、次の基準が示されています。
・個人事業主、法人への賠償
・旧緊急時避難準備区域等

この賠償基準で被害者の生活再建が不可能であることは明らかです。

(5)原賠審の指針見直し
原賠審は今年5~6月に避難指示区域を初めて現地調査を実施しました。ということは、中間指針、同第2次追補で示された「財物価値の喪失又は減少等」に関する指針は被災地を視察することなく策定されてきた、ということです。いくら放射線量が高く視察が困難だとしても、被災地の住人がいなくなった家や建物がどのような状況になっているかを把握せずに、よくもまあ指針を策定できたものです。
原発ADR等から実情を聞いてはいたのでしょうが、委員の中に一人でも現地視察を提言した人はいなかったのでしょうか。

原賠審は現地視察後、6月22日に「今後どうしたらいいか検討していきたい」と、以下の福島県内首長に現状を聞く会議を福島市内で開催しました。

佐藤福島県知事、瀬戸福島県市長会長(福島市長)、遠藤福島県町村会副会長(鏡石町長)、冨塚田村市長、桜井南相馬市長、伊藤川俣町副町長、菅野飯舘村長、山田広野町長、松本楢葉町長、遠藤富岡町長、遠藤川内村長、渡辺大熊町長、伊澤双葉町長、馬場浪江町長、松本葛尾村長

市町村長の報告は下記の議事録に載っています。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/kaihatu/016/gijiroku/1337083.htm

報告のなかで、ぜひ皆さんに知ってもらいたいことを書きます
<冨塚田村市長>
東京電力は損害賠償について1回も市民に説明に来たことはない。
<桜井南相馬市長>
避難指示区域が線量によって3区域に編成されるが、それは賠償の違いにつながり、住民間に大混乱をきたし行政運営ができない。避難指示区域は全区域「全損扱い」にすべきだ。」
<伊藤川俣町副町長>
3.11と2年たった今と何ら変わりなく全町民が不安の中で生活している。精神的損害賠償を全町民に対して続けるべきだ。被害者間で不公平にならないような取組を指針に盛り込むべきだ。生活の再建が成り立つ十分な賠償の指針を改めて作ってもらいたい。
<菅野飯舘村長>
放射能災害はほかの災害と全く違う特異性がある。一人ひとり感じ方が違い、それが決して間違ってもいない。ふつうの災害は心が結束するが放射能災害は心の分断の連続と言ってもいいかもしれない。賠償はさらに心の分断を広げている。飯舘村は地元で仕事をすることが復興に必ず役立つということで室内で働ける職場を残し、避難先から通勤してもらえるようにした。大変な努力をしながら働いている人々が職を失ったわけでないことで賠償の対象にならず、失職して賠償を得た人と格差が生じ、ひいては辞めていくことにもつながる。原賠審では思い至らなかったはずだから、何らかの対応をしてもらいたい。
<山田広野町長>
住民帰還を加速させるためにも帰還住民が直面する生活費の増加分などの困難に着目した新たな賠償を強く要望したい。住民には、事故が収束しているのかどうか、次に何か起きたらだれが責任を取ってくれるのか、前線基地になったような町の交通渋滞、知らない人ばかりの中で暮らす圧迫感、部活動ができない子どもたち等、強い不安と苦痛がある。避難指示を解除したから賠償は打ち切ればいいと、常に打ち切ることが先に出てくる。しかし、帰還に向けて動き出すごとに精神的苦痛は増えてくることをよく考えて、ぜひ見直してもらいたい。
<松本楢葉町長>
財物賠償は当初から全損一括と考えている。防災集団移転等の用地買収の売却益を財物賠償額から控除しないように要望する。
<遠藤富岡町長>
国が我々に寄り添ってもろもろを解決するという姿勢がどんどん後退している。以前私は原賠審に「早く現地に入って第二次追補の前に現地確認をして精度の高い指針を作るべきだ」と言ったが、ようやく2年数か月たって実現した。長期避難による精神的損害の賠償額を増額してもらいたい。町民は心身ともに疲弊しており、精神的な苦痛は並大抵のものではない。住宅はもう住めない。移転保障を基本とした賠償基準にしてもらいたい。東電は原賠審指針を最低線として賠償すべきなのに、上限としている。記載のないものは認めない。指針に盛り込むことが必要なので指針追加を要望する。
<遠藤川内村長>
村が20キロ圏内と圏外の二地域に分断され住民感情が極めて複雑になっている。田畑、農地、財物の賠償について20キロ圏内と圏外のラインを取り払う必要がある。森林についても同様で、現在森林そのものの市場価値が下がってきているが、20キロ圏外も当然賠償の対象である。
<渡辺大熊町長>
現在の財物賠償基準による金額では土地、建物を取得することは困難である。帰還の見通しが立たない中で高齢者を中心に精神的苦痛は増加している。6年目以降の対応を早くしっかりと明示してもらいたい。
<伊澤双葉町長>
不自由な避難生活を送っている町民の現状をみると、平穏な暮らしを原発事故によって突然奪われた町民の労苦に、1人あたり月額10万円が本当にみあっているのかどうか、改めて被害者の立場にたって損害額を見直すことが必要ではないか。自賠責保険の1日4200円×30日=126,000円で、精神的損害賠償額が1か月10万円となったが、私たちは交通事故でなく、国の施策で現在40都道府県に分散避難させられ、家族もバラバラになって暮らしている。その精神的な苦しみが10万円でいいのかと思っている。交通事故のけがなら日に日に症状が緩和されるが、我々の精神的損害は避難帰還が長くなるほどつらさが増幅していく。見直しを強く要望する。津波の犠牲者の捜索、救助ができなかった精神的損害も明示されるべきだ。現在の財物賠償基準による金額では、町民が希望する場所で新たに住居を確保するには不十分だ。新たな場所で生活を再建できるとする考えかたを指針に明示してもらいたい。将来にわたる健康被害への賠償の考え方についてもあきらかにしてもらいたい。審査会委員に被害者代表を参画させるなど、被害者の意見を十分にくみ取った対応を要望する。被害者の東電に対する不信感が根強いなかで時効に対する不安を払しょくするためには法的な担保を明確に定めてもらいたい。
<馬場浪江町長>
被ばく、避難生活(多い人で14回避難所を変更、仮設、借り上げ住宅での生活、子どもたちの転校、高齢者への影響、家族の離散、地域コミュニティの破壊と避難住民の孤立)による精神的損害は相当なものとなっている。精神的損害に交通事故の賠償基準が適用されたこと自体が困難であり、見直しをしてもらいたい。自賠責保険の1日4200円の入院費用は最低ラインだ。4200円×30日=126,000円で、1か月10万円とした精神的損害賠償額では到底生活できない。財物賠償の基準は再調達価格に至っていない。中間指針は最低限であるのに、東電は最上限としている。東電は現状を把握していない。原賠審が 中間指針を見直さなければならない。被害状況の調査に基づく指針を作成してもらいたい。徹底的、継続的な調査をすべきである。被害者の意見を聴取する仕組みを作ってもらいたい。
<松本葛尾村長>
長期避難に係る賠償が不可欠である。山林の価値が下がり大きな損害を被っている。山林賠償基準を速やかに明示してもらいたい。帰村後も十分な生活再建ができるような賠償の枠組みにしてもらいたい。

12市町村長の報告を聞いた能見会長は、指針の見直しについて次のように言いました。

①実情を踏まえて調整しなければならない問題がたくさんある。市町村長の意見を反映させながら適切に対応していきたい。
②戻って生活をしたい人にとって十分な賠償になるようにどういう基準を設けたらいいかを考えたい。
③戻れない人が再建築できる賠償が実際に運用されるよう検討したい。
④精神的損害については、長期(6年以上)にわたって戻れない人に対する慰謝料とのバランスで検討したい。
⑤生活再建支援について賠償として限界がある場合は、審査会の意見のまとめとして政府に提言していきたい。

「見直し」のキーワードは、「解除後の相当期間」「避難指示長期化に伴う賠償」「住宅確保損害」です。それぞれの現状です。

「避難指示解除後の相当期間」
特段の事情がある場合を除き1年を当面の目安とする、ことで原賠審委員の意見がまとまっています。
(根拠)避難指示は政府と住民の協議を経て解除されることになっており、事前準備は可能である。学校や仕事の節目から見ても1年あれば合理的に帰還時期を選択できる。家屋の修繕も解除前から可能であり、工事期間を考慮しても1年で帰還は可能と思われる。

…でしょうか?
帰還するかどうかは将来に係る重大な選択であり、政府との協議内容を見ながら考えるというケースも多いと思われます。協議期間を「帰還準備期間」としていいのでしょうか?
家屋の修繕や解体・改築が1年で十分でしょうか?業者が対応できるでしょうか?修繕や解体で出る廃棄物の処理に自治体は対応できるでしょうか?

原賠審は「状況に変更が生じた場合は柔軟に判断していく、個々に事情がある場合も個別具体的な事情に応じて柔軟に判断することが適当だ」としていますが、「東電は指針以外を認めない」との12市町村長の報告を反映していると言えるでしょうか。

原賠審会議で「1年では短すぎる」との意見が強く出ましたが、大多数の委員が「1年は妥当」としました。結局、原賠審の判断の底流には「修繕、改築も終わり新たな生活を始めて、なお賠償を受けているとしてもそれが解除後1年間であれば社会的にも容認される」があるように思います。

原賠審の議事録を読んでいると、被害者に寄り添う賠償指針追及と同時に、社会全体としての公平性の確保に強い意識が向けられていると感じます。公平性も重要なファクターではありますが、今回の事故は日本社会がこれまで経験しなかった規模のものであり、その賠償を既存の賠償にあてはめて考えることは、
伊澤双葉町長が訴えているように、適切とは言えません。社会全体としての公平性の確保に留意するほど、被害者間の不公平は深くなっていく現状もあります。

被害者間の最大の不公平は、避難指示区域内と区域外の線引きで生じています。この線引きは政府の指示という絶対的な権威で支えられ、賠償内容がその1線で大きく変わることを「自明の理」としています。しかし、区域外でも区域内より高線量となっている地点や家屋があることを具体的に知っている被害者が、絶対とは言えない放射線量測定値で引かれた線を「うのみ」にできるわけはありません。
だからこそ、原賠審は自主避難の賠償指針を示したのですが、その内容は区域内と比べてあまりにも不公平です。12市町村長も強く見直しを求めたのですが、どうやら追加指針は考えていないようです。新たな状況が誰の目にも明らかにならない限り、原賠審がいったん示した指針を見直すことはないようです。

キーワードの2つ目「避難指示長期化に伴う賠償」の現状です。
避難指示が6年を大きく超えて長期化することが見込まれる地域(帰還困難区域と帰還困難区域が大半を占める市町村の居住制限区域、避難指示解除準備区域で帰還の計画が策定されていない地域)の住民に、最終的に帰還するか否かを問わず「長年住み慣れた住居及び地域が見通しのつかない長期間にわたって帰還不能となり、そこでの生活の断念を余儀なくされた精神的苦痛等」を一括して賠償する、方向
でまとまっています。
算定方法の考え方として次が示されています。
①精神的損害額に含められていた生活費増加分は合算しない。(賠償の対象となる生活費増加費用が生じた場合はその実費を損害額とする)
②中間指針第2次追補で示した一括払い600万円のうち、事故後3年後以降分を控除して追加賠償額を算定して示す。
③対象とならない地域とのバランスも考慮する。

この考え方をもとに12月9日の原賠審・審査会で支払額案、精神的損害賠償額10年分1200万円(10万円×12か月×10年)等を基に総額を1000万~1400万円として、すでに受領している750万円(10万円×75か月<2011年3月~2017年5月>)を控除した250万~650万円を一括で支払う、が示されました。
この算定には、交通事故死亡遺族慰謝料基準額・2800万円、地滑り等で自治体などから受ける災害見舞金や慰謝料・600万~800万円も参考にしたとのことです。

慰謝料について原賠審はこれで打ち切りの方向を出していますが、地元では、避難が終了していない中での打ち切りに強い批判が出ています。
「避難生活も半ばの現時点で慰謝料の全体像を示すことはできないはずだ。机上の空論だ」(富岡町・宮本町長)<朝日新聞12月10日>
「避難者の精神的ダメージは時間とともに増す。慰謝料を簡単に打ち切ることは考えるべきではない」(浪江町・馬場町長)< 同 >

キーワード3つ目は「住宅確保損害」です。
移住を余儀なくされる場合(避難指示長期化に伴う賠償の対象となる場合)、帰還して住宅を確保する時その費用が元の住宅(または宅地)の事故前価値を終える場合、必要かつ合理的な追加費用を従来の財物損害とは別に賠償すべき損害として認める、方向でまとまっています。
 
費用項目は ①住宅取得・修繕に要する追加的費用 ②宅地取得に要する追加的費用 ③解体費用 ④登記等の諸費用 です。

費用項目それぞれの必要かつ合理的な追加費用の算定方法です。
①住宅取得・修繕に要する追加的費用
被害者が事故時と同等の居住環境を確保する観点から、公共用地取得の補償額(新築時点相当価値の5割程度)より、再建築費用に近づけることが望ましい。被害者間の公平性等を総合的に考慮して、新築時点相当価値と事故前価値の差額の50~75%を上限として、住宅取得・修繕費用と事故前価値の差額を必要かつ合理的な追加費用と認める。
②宅地取得に要する追加的費用
同じ面積を確保する必要性を認めることは困難であり、被害者の多くが土地単価の周辺地域に避難していること等を踏まえて、周辺地域での標準的な宅地取得の必要性を認めることが合理的である。元の宅地面積に宅地単価の差額を乗じた額と、取得した土地の価格と事故前価値の差額、のいずれか小さいほうの金額を必要かつ合理的な追加費用と認める。
③解体費用
実際に発生した費用を必要かつ合理的な追加費用と認める。
④登記等の諸費用 
実際に発生した費用を必要かつ合理的な追加費用と認める。

以上の「見直し」は第4次追補として12月末に示される予定です。

「2 時効について」
2014年3月で事故発災後3年となります。そこで、問題になるのが「民法の損害賠償請求権時効3年」です。
5月29日に、「民法の損害賠償請求権時効3年」を過ぎても被害者が東電に提訴できるようにする「特例法」が成立しました。

ただし、提訴の前提として、原発ADRに申し立てをしていることが必要です。
原発ADRの仲介が不調に終わった場合、打ち切り通知から1か月以内であれば提訴できるというのが「特例法」の内容でした。
これでは、不十分だと、法案に「本年度中に何らかの法的措置の検討を政府に求める」付帯決議が全会一致で採決されました。

今年5月末時点で避難を指示された約16万人のうち1万人以上が未請求でした。

12月4日、「民法の損害賠償請求権時効3年」を10年に延長する「特例法」が成立しました。
数年後の健康被害を想定して、賠償請求権を行使できる「除斥期間」を「事故時から20年」ではなく「損害が生じてから20年」ともしています。

日弁連では、営業損害や自主避難費用等を請求していない被害者が10万人近くいるとしています。
賠償問題は、被害者の権利行使の問題であり、加害者である東電と国の責任履行の問題です。今後の原発存続にもかかわる問題です。これからも長く続く賠償問題について、「いのち・原発を考える新潟女性の会」は考えていきます。
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